東京地方裁判所 昭和41年(行ウ)130号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原告が、昭和四〇年一一月二五日東京法務局府中出張所に対し、本件土地に関し、登記義務者原告本人兼登記権利者鈴木文恵の委任による代理人として、その所有権移転登記を申請し、不動産登記法施行細則四一条の規定に基づき「登記権利者の住所を証する書面」として鈴木文恵の住民票謄本を添付して提出したこと、被告が同年一二月三日、右申請書添付の住民票謄本によれば登記権利者鈴木文恵は昭和三〇年一二月一〇日生れの未成年者であつて、かつ原告の長女であることが認められるから、登記原因である売買の同意権を有する者の同意があつたことを証する書面を添付すべきにかかわらず、これが添付されていないことを理由として、原告の右申請を却下する旨の本件却下処分をしたこと、原告が昭和四〇年一二月四日、本件却下処分を不服として、不動産登記法一五二条に基づき東京法務局長に対し審査請求をし、同法務局長が昭和四一年九月一一日右審査請求を却下する旨の裁決をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。
ところで、原告は、被告が本件申請書に添付した住民票謄本により実質的審査を行い、登記権利者鈴木文恵が未成年者であつて、原告の長女であることを認定したのは、形式的審査権しか有しない登記官吏として許されないと主張するので、まずこの点を判断する。
登記官吏は、申請人から提出された登記申請書およびその附属書類ならびに既存の登記簿の記載によつて、登記申請が形式上の要件を具備するかどうかの形式的審査をすることができるにとどまり、その登記事項が真実であるかどうかにつき実質的審査権を有するものでないことはいうまでもない(最高裁判所昭和三五年四月二一日判決、民集一四巻六号九六三頁参照)が、しかし、登記官吏が、ある事項を証するために提出された書面により、当該登記申請の他の形式上の要件の存否を審査することは、形式的審査権の範囲に属し、なんら妨げられないというべきである。
本件についてこれをみるに、被告は、前示のとおり、本件申請に添付された「登記権利者の住所を証する書面」により登記権利者鈴木文恵が未成年者であり、かつ原告の長女であることを認定し、原告に対し登記原因である売買につき同意権を有する者の同意があつたことを証する書面の提出を要求したが、右の認定は登記申請の形式上の要件の審査の範囲内に属すると解するを相当とする。けだし、不動産登記法三五条一項は、「登記原因ニツキ第三者ノ許可、同意又ハ承諾ヲ要スルトキハ、コレヲ証スル書面ヲ提出スルコトヲ要スル」と規定し、未成年者が法律行為をなすには法定代理人(未成年者の法律行為につき同意をなすべき決定代理人は、原則として親権を行なう者である(民法八二四条)が、親権を行なう者と子の利益相反行為については、親権を行なう者は特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求し(同法八二六条)、利益相反行為にない親権を行なう者と特別代理人とが未成年者の法律行為につき同意をなすべき法定代理人である)の同意も、後に述べるように、右法条にいう同意に該当すると解すべきであるから、登記官吏が登記申請を審査するに当り、売買を登記原因とする登記権利者が未成年者であるか否か、また登記権利者が未成年者である場合、その法律行為について同意をなしうる法定代理人が親権を行なう者かそれとも特別代理人か、すなわち登記原因たる法律行為が親権を行なう者と子との間の利益相反行為であるか否かは、登記官吏にとつて、前記不動産登記法三五条一項四号の規定により、法定代理人の同意を証する書面の提出を要する場合であるか否か、これを要する場合に同意権限を有する法定代理人の同意を証する書面が提出されているか否かという登記申請の形式的要件を審査するにつき不可欠の事実であるから、かかる事実を審査することも、それが前記のような申請書に添付された書面によつてなされる限り、当然に、登記官吏の形式的審査権の範囲に属するというべきであるからである。したがつて、この点に関する原告の前記主張は理由がないといわなければならない。(杉本良吉 中平健吉 仙田富士夫)